ネパール肖像 Nepali | 2007

ネパールのポカラという湖のある町を初めて訪れたのは二十歳の春。当時、東京生活で自分と深く繋がるもの、信じられるものが見つからなかった私にとって、すべては現実味を失いフィルター越しに感じられていた。自分の存在さえ虚ろだった。人間にとって「本当の幸せ」、「生きる意味」とは何だろう。それは真剣な問いで、その答えを自分の身で知りたいと思っていた時、ある写真集と出会った。そこには貧しくても目を輝かせたネパール人の笑顔があった。ここへ行けば何かがきっと見つかる、そう直観しネパールへ飛んだ。

約一ヶ月半滞在したネパールでは、実に様々なことが起きた。とくに、真夜中の湖で嵐に遭い、ボートが水没しかけた経験を今でも鮮明に憶えている。全身震えながら奇跡的に辿り着いた岸辺。そこに足をついた時の感動は忘れられない。「生きて、大地を踏みしめている当たり前の幸せ」を、決して忘れてはいけないと思った。

七年ぶりにポカラの人々と再会し、彼らの肖像写真を撮影させてもらうことになった。ほの暗い部屋の自然光に浮かんだ、一人一人と向き合いながら感じた。私と相手というまたとない生が、カメラを通して交わったその一瞬の静けさに、永遠に美しいものがある。人間の静かな眼差しに、その誇らしい永遠の一瞬がある、と。

*詳しくは、風の旅人 28, 29号(2007) 「今ここにある生」 に連載しています。